座談会 地域に生きる大学イメージ

座談会

地域に生きる大学

開学20周年を迎えた島根県立大学。2021年4月、2つの新学部(国際関係学部、地域政策学部)が誕生する浜田キャンパスに、清原学長、新学部就任予定の個性豊かな教員3名が集まり、井上副学長の進行で「地域に生きる大学」への思いを語り合いました(2020.11.7付 山陰中央新報掲載)。

Profile

  • イメージ

    清原 正義 教授〈理事長兼学長〉

    東京大学大学院教育学研究科博士課程満期退学。姫路工業大学講師、同環境人間学部教授。兵庫県立大学環境人間学部長、副学長、学長を歴任。2017年4月から現職。専門は教育行政。

  • イメージ

    井上 厚史 教授〈副学長〉

    同志社大学文学部卒業。大阪大学大学院文学研究科単位取得退学。大韓民国蔚山大学校人文大学講師、本学総合政策学部教授を経て2019年4月から現職。専門は、日本思想史、および東アジアの儒学思想。

  • イメージ

    丁 雷 テイライ 准教授〈言語文化研究(中国語)〉

    中国北京出身。広島大学大学院総合科学研究科修了、博士(学術)。広島修道大学非常勤講師、島根大学特別嘱託講師、北海道釧路公立大学専任講師、本学総合政策学部准教授を経て就任。専門は中国語音声学。

  • イメージ

    田中 輝美 准教授〈関係人口論〉

    島根県浜田市出身。大阪大学大学院人間科学研究科後期課程修了、博士(人間科学)。山陰中央新報社を経てフリーのローカルジャーナリストとして活動中。専門は関係人口論。

  • イメージ

    平井 俊旭 講師〈ブランディング論〉

    武蔵野美術大学造形学部空間演出デザイン学科卒業。インテリアデザイン事務所SUPER POTATOに勤務。2001年~2015年まで株式会社SmilesにてSoup Stock Tokyoのブランディングを行う。雨上株式會社と株式会社共立の役員としても活動。

新学部に生まれ変わる
島根県立大学浜田キャンパス

井上 まず、新学部創設に至った背景や経緯について清原学長に伺います。

清原 浜田キャンパスに総合政策学部、出雲キャンパスに看護栄養学部、松江キャンパスに人間文化学部を有する島根県立大学は20周年という節目を迎えました。その間、社会も大きく変わり、今の高校生、地域のニーズに合った学びを提供する必要が出てきました。入学前から大学で何を勉強するのか明確にイメージ出来るよう、学生目線で考え、島根に根ざしながらグローバルな視点をもって学び、社会で活躍する人材を育てていくために、新たに2学部2学科5コースを創りました。

井上 新学部5コースの特色は何でしょうか。

清原「国際関係コース」は、北東アジア※を中心に自治体外交等に有効な交流、教育、研究をすすめます。「国際コミュニケーションコース」は、語学、言語学・コミュニケーション学などを学び、異文化交流等を通じて、他者への理解を深めます。「地域経済経営コース」は経済学・経営学の観点から地域課題を解決する力を養います。「地域公共コース」はグローバルに地域課題を捉え、特に公務員志望の学生に役立ちます。「地域づくりコース」は、地域に貢献出来る企画力を養います。ユニークで人間力の高い教員が多いです。 ※中国、韓国、ロシア、モンゴルなどアジアの北東に位置する国々

イメージ01

様々な経験を積んだ個性豊かな
教員たちが学生の可能性を広げます

井上 就任予定の先生方に、これまでの経歴、研究等についてお尋ねします。

田中 大学卒業後、山陰中央新報社の記者として、地域のニュースを地域内の人たちに伝える仕事をしていました。取材先で出会った素敵な人や地域を地域外の人たちにも伝えたいという思いが強くなり、日本初の「ローカルジャーナリスト」に転身し、地域に暮らしながら、地域のニュースを外に発信しています。島根は過疎、人口減少など課題が山積していますが、だからこそ地域づくりの最先端になれる可能性があり、全国から注目されています。島根というフィールドはとても面白いです。

イメージ02

平井 首都圏のインテリアの設計事務所に就職し、ホテル、飲食業など、様々な企画業務を担当しました。その後、「スープストックトーキョー(以下SST)」というスープ専門店のプロデュースに携わり、デザインを通じて、どのように顧客とコミュニケーションするか、価値を伝えるか、ブランドづくり(ブランディング)を実践してきました。SSTの店舗では国産材を使っていましたが、そこで地域と関わる中で、地域資源を上手く活用できていないケースが多いことに気づきました。ブランディングには、ブランドを具現化していくディレクションの役割が不可欠ですが、地域にはディレクションできる人が少なく、それならばと自ら会社を立ち上げました。その後、滋賀県高島市など、地域のブランディングを手掛け、現在に至ります。これまでの経験を学生たちに伝えることが出来ればと思います。

イメージ03

丁雷 総合政策学部で中国語を担当しています。中国語は発音が難しいため、音声分析用のソフトウエア「Praat(プラート)」を活用しています。学生の発音データを波型のカルテにすることで、授業後に学生自身がスマートフォンなどで発音のチェックをすることが出来ます。発音という目に見えない抽象的なものを可視化することで、学生の上達も早く、以前の教え子の中には、スピーチコンテストで優勝した学生、難しい語学検定に合格した学生もいます。さらに学生の利便性を高めるため、現在はアプリの開発を進めています。

イメージ04

地域との連携を深めて、
地域に貢献しながら
実践力を養います

井上 地方公立大学にとって、地域連携はますます重要となっています。浜田キャンパスにおける成果、今後の取り組みについて学長に伺います。

清原 私は着任以来、「地域貢献日本一」を目標に掲げてきました。そのために①地域の人材育成、②教育研究資源を集積し、地域に還元する、③地域に出向き、地域づくりに貢献する、この3つをテーマに進めてきました。浜田キャンパスはボランティア活動が特に盛んなキャンパスになったと思います。コロナ禍において地域の皆様から1トン超のお米や多額の寄付を頂いたことは、学生、教員が地域の人と交流を重ねた結果です。他方、島根県を通じた国際交流についても、より一層力を入れていく必要があります。具体例として、2019年、隠岐郡海士町で行われたJICA※のブータン青年研修プログラムに本学の学生と教員が参加しました。今後も、様々な交流の中でグローカルな人材を育てていきたいと思っています。
※独立行政法人国際協力機構(Japan International Cooperation Agency)の略称

井上 「関係人口論」という講義を担当予定の田中さんは、昨年日本で初めて関係人口論で博士号を取得されました。関係人口は「観光以上、定住未満」と言われますが、関係人口を活用した地域活性化についてどのようにお考えですか。

イメージ05

田中 地域の課題はインフラの未整備ではなく、実は「心の過疎化」だと言われています。関係人口のような外の人材が関わることで、諦めの気持ちが前向きになる。特に、一生懸命に関わる学生の力は大きいです。地域の人たちが励まされ、創発によって新しいものが生まれやすくなる。学びながら地域の皆さんと一緒に実践していくことが、お互いのプラスになります。

井上 島根には優れたものづくりの企業、豊かな観光資源など、良いものがたくさんありますが、残念ながら全国的な地名度は必ずしも高いといえません。平井さんは大学生と一緒に地元企業のブランディングに取り組むなどアイディアをお持ちでしょうか。

平井 取り組んできたブランドづくりの観点から言えば、コミュニケーションをとり、サポートしてファンをつくり、価値を伝える。それがよいスパイラルになればブランドとして成立します。ブランドをつくる人の思い、熱意、ビジョンがあることを前提に、その上でデザインの視点から、商品やサービスをより魅力的に見せるきっかけを作っていけたらと思います。島根には十分ブランディングの可能性があります。

井上 地域連携のもう一つの柱として高等学校との連携があります。今後の展望について学長に伺います。

イメージ06

清原 効果的な人材育成には高校と大学の連携が不可欠です。単に協定を結ぶだけでなく、高校と大学が共に学生を育てるために、浜田キャンパスでは全国に先駆けて高校と大学の連携型推薦入試を始めました。松江・出雲キャンパスでも始める予定です。また、高校生にとって、大学教員より年の近い大学生から学ぶことも多く、大学生と一緒に学ぶ機会や場所をもっと増やして双方の理解を深め、高大連携を進めていきたいと考えています。

井上 丁雷さんはこれまでもユニークな手法で学生を指導されてきましたが、地元の高校生に提供できる学習機会、サポートはあるでしょうか。

丁雷 日本の若い人たちは、中国に対してネガティブな感情があるように思います。例えば、爆買い=成金のイメージがあると思いますが、実は家族や友人のために買っているだけとすると、そのことを知る前と後では、随分、印象が変わるのではないでしょうか。地方では都会に比べて外国人と接する機会があまり多くないので、講演会の開催など、地域の高校生たちと直に会って話をして、コミュニケーションの機会をつくることも、外国人教員の役割だと思います。

社会に役立つ人間力を
育てる環境をつくり、
魅力ある大学へと進化していきます

井上 いよいよ4月に新学部の1期生が入学します。清原学長、新入生に期待することは何でしょう。

清原 社会・企業は成績の優秀な人よりも、人間力の高い人材を求めています。経験の中で人は成長します。本学では知識を得ると共に、様々な経験、積極的なチャレンジが出来る機会を学生の皆さんに提供していきたい。学生の皆さんは、誰もが良い素質を持っています。様々な経験を積んで人間力を高め、自信を持って社会で活躍して欲しいです。

イメージ05

井上 新任の先生方から新学部の学生に対してメッセージをお願いします。

丁雷 大学の成績は一時的なものでしかありません。正しい態度、心構えを持ち、自分自身の未来を正しく導くことが一番大事なことだと学生たちに伝えていきたいです。国際社会で通用する語学力、コミュニケーション能力を身につけ、今後の人生を色濃く豊かなものにしていきましょう。

平井 大学は人生最大の寄り道とも言えます。その間に自分のモノサシを作ってほしいです。価値観が多様化する時代ですが、人に流されず創造し、自分で判断出来ることが地域づくりのリーダーに必要です。自分の中にしかないもの、価値観に気付くきっかけをつくりましょう。

田中 「地域について学ぶなら島根県立大学」と言われるようになりたい。特に1期生はゼロからつくる大切な仲間です。「面白そう!」と少しでも心のアンテナが動いたら、ぜひ島根県立大学に来て、一緒につくっていきましょう。お待ちしています!