高齢者権利擁護について地域協力者の方を交えて討議しました。

老年看護学:地域協力者参加による高齢者権利擁護演習

老年看護学:高齢者の権利擁護学習

地域協力者参加による高齢者権利擁護演習(平成21年度)
地域協力者の方を交えて討議しました。

≪ねらい≫

 日常生活の中で高齢者の権利擁護に関わる事実を、ラベルワーク技法を用いて言語化・客観化をはかることをめざす。そして、学生が高齢者の権利擁護にかかわる自らの見方や感じ方を客観視し、看護者として高齢者の援助をする際にどのような姿勢を持つべきか討議を通して考えることをめざす。

≪対象≫
 1年次生(老年看護対象論:必修)

≪演習方法と実施状況≫
 演習実施日:平成21年11月19日(木) 13時10分〜16時20分

高齢者権利擁護演習

 発 表 会:平成21年11月24日(火) 16時30分〜18時00分

知の交流知の交流2

 作成した図解を用いて発表ならびに意見交換(ラベル交流含む)を行い、「知の交流」を行った。

≪演習の成果≫

 演習参加学生 92名(11G) 、地域協力者 19名、演習指導担当教員 8名
 1グループに学生8〜9名、地域協力者1〜2名、教員1名を配置しました。学生・地域協力者・教員が協力して、ラベル1枚1枚を大切にして積極的かつ深い討議が展開されました。
 演習に参加した学生に、「高齢者の権利擁護」に対する意識の変化を、同じ項目で問う質問紙を用いて演習前(演習開始時)と演習後(発表会終了後)の2回調査しました。結果は以下の通りです。
 質問紙は学生92名に配布、そのうち質問紙回収数(演習前後2回とも回収できた数)は73、回収率は79.3%でした。
 「私は日頃から人権意識が高い」、「高齢者の権利擁護に対して興味・関心がある」、「高齢者の権利擁護は日常的な問題である」などの10項目について、「5:非常にそう思う」から「1:全く思わない」の5段階で評価させ、その得点状況を演習前と演習後で比較しました。10項目の平均値は演習前が3.24(標準偏差0.39)、演習後が3.45(標準偏差0.45)で演習後の方が高値でした。「5:非常にそう思う」と「4:そう思う」を肯定群,「3:どちらとも言えない」「2:あまり思わない」「1:全く思わない」を否定群として、演習前後でχ2検定をした結果、3項目に有意差が認められました。「私は日頃から人権意識が高い」(≦0.01)、「高齢者の権利擁護は日常的な問題である」(≦0.05)の2項目は演習後が高くなっていました。一方「高齢者は周囲の人に擁護してもらうことを望んでいる」(≦0.05)は演習後が低くなっていました。学生たちは、高齢者の権利擁護は日常的な問題であると捉え、自らの人権意識を高く持とうと考えていました。唯一「高齢者は周囲の人に擁護してもらうことを望んでいる」の項目が演習後ポイントが下がったのは、演習前まで必要以上に高齢者を弱者としてみていた自分たちの意識に気づいたためと思われます。
 自由記載では、「高齢者を弱者として見てきたが、それぞれ高い能力があり自分の考えを持つ自立的な存在であると分かった」「社会を支えているのは自分たちのような若者や壮年期の人だと思っていたけれど、高齢者にも支えられていることに気づいた」「高齢者に対するネガティブな気持ちがポジティブな気持ちに変りつつある」「高齢者の気持ちや立場を考えるようになった」といった高齢者に対する捉え方が変化したことを表現していました。また「人権や権利擁護に関する意見は人それぞれ異なるので、その違いを考えられる視点を持つことが大切だと思った」「社会全体でもっと人権や高齢者の擁護について考える必要があると思った」「高齢者の権利って守られているようで、実はあまり守られていないのではないかと感じた」「私たち一人ひとりが意識してこそ権利擁護にかかわる制度が意味を持つと思った」など、人権に対する考え方や高齢者権利擁護における社会全体の課題を捉えるなど視野の広がりが感じられました。
 また演習に参加して頂いた地域協力者からは、「学生さんたちの言葉や思考に触れ、あらためて(自分たちとの)ギャップを感じた一日だった。一方で心温まる一言もあり元気を頂くこともできた」「高齢者の気持ちについて、率直に学生さんに伝えることができたと思う」「若い学生さん達と話をして、自分も久々に学生に返ったような気持ちで楽しい時間だった」「今一度自分の生活を見直し、年を重ねる心構えについて準備したい」などの意見があり、学生との討議を自分に引き寄せ前向きに捉えている意見がありました。一方で、「若い方の高齢者に対する感じ方が、かなり昔の年寄りのイメージであると思われる発言があった(現在の高齢者像を知る必要がある)」という意見も頂き、学生が社会情勢を踏まえながら等身大の高齢者像を捉えられるような教育をさらに強化する必要性も感じています。  
 高齢者権利擁護演習は今回で6回目を迎えましたが、地域協力者を交えての演習展開は今回が2回目でした。今年は地域協力者19名の協力があり、昨年にも増して力強い地域協力者のサポートの中で演習ができました。学生たちは、高齢者に対する捉え方がより柔軟になり、多様性な価値観を認めつつ他者を理解する必要性を学べたと感じています。


地域協力者参加による高齢者権利擁護演習(平成20年度)

地域協力者の方を交えて討議しました。
演習実施日:平成20年12月4日(木) 13時10分〜16時20分
発 表 会:平成20年12月11日(木)13時10分〜14時40分
対象:1年次後期 老年看護対象論(必修)


《ねらい》
 人々の人権について考えることは、私たちの日常生活のあらゆる場面で自らの行動規範や判断の基準になる部分であり、看護学を学ぶ上でもとても重要なことです。しかし、人権とか権利擁護について学習者が主体的に学習することは、「難しい」と感ずることも少なくなく、なかなか深い討議が出来にくい状況があります。
 この演習では日常生活の中で私たちが抱いている高齢者に対する様々な見方や行動を題材にして、社会における高齢者の権利擁護に関わる事実を、ラベルワーク技法を用いて言語化・客観化をはかることをめざします。そしてこのプロセスを通して、高齢者の権利擁護にかかわる自らの見方や感じ方を客観視し、看護者として高齢者を援助をする際にどのような姿勢を持つべきか討議を通して考えることをめざします

《方法》

  1. 日常生活の中で「高齢者の権利が守られていると思うこと」もしくは「高齢者の権利が脅かされていると思うこと」について30〜50字程度の一文で、各自がラベルに簡潔に書き表わします。
  2. 各自が記述したラベルの内容を読み上げながら、内容が似ているラベルを集め小皿に載せて整理(類型化)します。さらに小皿同士の関係を意味づけし、高齢者の権利擁護に関わる私たちの意識や社会の有り様を図解で表現します。
  3. これらの討議プロセスの中に地域協力者の方に加わってもらい、学生たちのラベルの説明や意味づけに対して実体験をもとに現実性・客観性の観点から意見を頂きます。
  4. 作成した図解を用いて発表ならびに意見交換(ラベル交流含む)を行い、「知の交流」を行なうとともに学習成果と課題を明らかにします。

《結果》
 演習参加学生 79名(10G) 、地域協力者 11名、演習指導担当教員 8名
 1グループに学生8名程度、地域協力者1〜2名、教員1名を配置しました。学生・地域協力者・教員が協力して、ラベル一枚1枚を大切にして積極的かつ深い討議が展開されました。
 演習に参加した学生と地域協力者に、質問紙による評価を求め以下の結果を得ました。
 学生には79名配布、質問紙回収数74、回収率93.7%
「高齢者の権利について考える気持ち」、「高齢者の権利擁護に対する興味・関心」、「高齢者の権利擁護について多くの人と話し合う必要性」、「高齢者を正しく理解する必要性」などについて10項目を演習前との比較で5段階(5:非常に強くなった、4:強くなった、3:変らない、2:弱くなった、1:非常に弱くなった)で問いました。その結果、現代社会の現状を問う設問2項目以外の8項目で、平均値が4点以上(4.32〜4.66)を示し、演習前に比べて高齢者の権利擁護に対する学生の意識が強化されていました。
 自由記載欄からの意見として、「権利擁護について普段あまり考えていなかったけれど、こんなにも日常の中にいろいろなことが含まれているのだなあと驚いた」「自分たちの思いこみや偏見に気づき、相手を正しく理解することが重要であると思った」「難しい内容だったけれど、ラベルや図解など目に見える方法で話し合ったので意見が分かりやすかったし、楽しかった」といったものがあり、この演習で権利擁護に関する意識化や学びを触発されたようです。地域協力者が討議に参加されたことに対して、「自分たちの考えが的確であった部分とそうでなかった部分が明らかになった」「高齢者の人は、その時々に応じて考えをもって行動されていることがわかった」といった意見が多くありました。
 また演習に参加して頂いた地域協力者からは、「学生たちもだが、我々高齢者自身もこのことについて自分たちで意見交換したり、社会に発信していくことが必要だと思った」という意見があり討議に参加したことによる地域協力者御自身の考え方の変化も感じ取ることができました。   
 高齢者権利擁護演習は今回で5回目を迎えましたが、地域協力者を交えての演習展開は今回が初めてでした。地域協力者の参加があったことで討議内容はより客観的かつ深いものになったといえます。

ラベルワークと発表会