私のオススメ本

第206回 小説を読むのが好きな人にオススメ

おススメ本
  松江キャンパス 司書 北井由香
  私のオススメ
  『小説』
  
 野﨑まど著
   講談社 2024年11月発行

 小説を読みたいだけ。それだけじゃ駄目なのか?読むだけじゃ駄目なのか?
 私には、『小説』(本のタイトル)が小説を読むという行為を分析して肯定することへの挑戦のように思いました。
 主人公である内海集司は、同級生の友人、外崎真と小説を読むことに夢中になります。2人は、小説家の髭先生(小説家としての名前を教えてもらえず、あだ名)が住んでいるというモジャ屋敷に潜り込み、好きなだけ本を読みます。
 しかし、その屋敷には、秘密があり、物語は予想外の展開を見せることになります。物語が進むにつれ、小説を「読むこと」「書くこと」の意味について深く考察されていきます。小説が小説を読む人に与える影響、小説が持つ力、読む意義、それらが壮大な宇宙の話にまで拡がり言語化されていきます。そして、物語の後半には、どんでん返しが待っていて、髭先生の秘密や屋敷の秘密が次々に明かされていきます。
 私が本作で一番心に残ったのは「嘘」について「洞木鏡介」が言っていたことです。「嘘とは、内側にしかないもの。自分の中にしかないこと、他人と共有できないこと。だから、外側に出すとずれる。人とずれる。社会とずれる。」嘘とはズレであるという定義が面白いと思いました。その嘘を真実として、外に出すのではなく、嘘(フィクション)として外に出した場合、つまりそれが小説になるのでしょうか。
 みなさんは、この本を読んで「小説は読むだけじゃ駄目なのか?」その答えに辿り着くことが出来るのでしょうか?


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